第10回全日本小学校ホームぺージ大賞 みんなの毎日は宝物! J-KIDS大賞2012
受賞校インタビュー

J-KIDS大賞 2006年度 受賞校インタビュー (1) 瀬部小学校

経済産業大臣賞愛知県代表 一宮市立 瀬部小学校

瀬部小学校:南澤校長,辻教諭,中島教諭,児童
取材:選考委員 豊福晋平, J-KIDS大賞実行委員会

「経済産業大臣賞」を受賞した愛知県一宮市瀬部小学校では、児童がホームページづくりに積極的に関わっています。そのコンテンツは大変に充実しており、更新頻度の高さも特筆すべきものです。さらに地域と関わり、他校ともコミュニケーションするなど、ホームページというメディアを教育の場に意欲的に導入しているのがうかがえます。このホームページはどのように運営されているのでしょうか。また瀬部小学校は、ホームページづくりに、どのような可能性を見いだしているのでしょうか。

学校の視点南澤力男校長

情報は発信していると、見えてくる

学校は、積極的に外に開いていくべきであると思います。昨今、企業の社会的責任などが問われるようになり、ステークホルダー(利害関係者)にきちんと説明すること、つまり組織の透明性を保つ重要性が叫ばれていますが、学校にも同じことがいえるのではないでしょうか。その情報を提供していくのに、インターネットはとても適したツールだと思います。一宮市の教育長もこの考えに立っており、現在、一宮市内の小学校はホームページを次々と立ち上げ、更新にも力を注ぐようになっています。
瀬部小のホームページは、担当する職員の熱意にも、大いに支えられてきました。学校の教師というものは、子どもに教える立場からか、ともすると全能であるとみられがちですが、先生一人ひとりにもそれぞれ得手不得手といった個性があるものです。それをくみ取り、適材適所に人材をコーディネートすることが校長の務め。私たちのホームページを統括する教諭は県の加配で、担任を持ちません。そのため客観的に情報を集めやすいという、利点もあるかもしれません。けれどもそれよりも大切なのは、ホームページづくりの意義を感じとり、力を注ぐことのできる人材を見いだし、活動しやすいよう環境を整えることなのです。

インターネットを始めると、さまざまなメールが日々、届くようになります。その中には悪戯やスパムメールもある。保護者の方からは、匿名で苦情も届きます。僕は毎朝、こうしたメールの全てに目を通し、対応しています。保護者の方からのご意見に返信するだけでなく、苦情の内容については、ホームページに掲載します。コンピュータを持たないご家庭もありますので、別途プリントして配ります。一見、学校に都合の悪いような話題も、あえて公開していくのです。これを継続することによって、ようやく学校のありのままの姿が、保護者の方にも見えるようになったのです。今では「学校も大変だな。先生もいろいろと頑張っているんだな」と、理解していただけるようになりました。届いたメールは、読んだら全て破棄します。子どもの中には、僕ら以上にコンピュータを扱える子もいる。何らかの方法で、悪意に満ちた情報に触れてしまうこともありえますから、徹底的な情報管理は不可欠です。

ある時、地域の方がこんなことを言いました。「最近の子どもは挨拶をしない」と。はたしてそうでしょうか。人間は太古の昔から、生まれたときは、オギャーとしか言いません。「おはようございます」「こんにちは」というのは、人間社会で覚えていくことなのです。それを教えるのは、私たち大人の仕事です。親が教え、先生が教え、地域が教えるのです。地域も子どもたちを育てているのです。もし地域の子どもが挨拶をできるようになったら、それはあなたがしつけたことになる。その喜びは、あなたにもかえってくることでしょう。子どもの安全を守ることも然り。ホームページは、そうした地域とコミュニケーションしていくきっかけをもたらしてくれるのです。

私たちは、できるだけ、今日あった出来事を次の日に伝えるようにしています。「すぐ載っているので見たくなる」というのが、地域の方々の感想です。ホームページづくりに参加する方もいます。情報というのは、どんどん発信していると、抱えている問題点も見えてくるものです。まだ整理されていない部分などもあります。でも、「まだ改善できる」というのと「やっていて楽しい」という二つの気持ちがあることが、運営を支えているといえるでしょう。これからも、一生懸命な人たちの表情が伝わるホームページでありたいと考えています。

現場から辻美早子先生 中島いづみ先生

ホームページで広がる交流

子どもたちが制作に携わっていますが、その経緯は。

もともと私は、指導案をパソコンで打つこともできないようなレベルからスタートしています。それではいけないと思いパソコン教室に通いだし、ホームページについても学びました。そんなこともあって、前任者から引き継いだ最初の年はしゃかりきになって、ページを増やすことばかり考えていました。けれども1年間やってみたら、自分で作ったものを自分で見てもつまらない、学校のコマーシャルを作っているにすぎないのではないか、と感じるようになった。そこで校長に「子どもたちと一緒にホームページを作りたい」と相談したところ、「パソコン委員会というものを作ってみたら」と。そして翌年から、10名の希望者とパソコン委員会を立ち上げて、一緒に作り始めたのです。

記事を作っていくプロセスは、スムーズでしたか。

試行錯誤しました。初めは記事集めの手描きのノートを子どもたちに作らせて、私が自宅で打ち込んだりしましたが、作業量が膨大です。そこで、子どもたちが休み時間などにパソコン室のパソコンを使ってメモ帳ソフトに書きこみ、そのデータを一人ひとりフロッピーで管理する、という方法にしました。このフロッピーを私が自宅に持ち帰り、内容をチェックしながら、ブログ「せべっこ日記」などの記事としてアップしています。さらに最近はフロッピーでなく、メールでデータを転送する方法も導入しています。私たちの学校ではブログはブロックされており見ることはできないので、自宅での作業も発生します。加えて子どもたちには、交流がある学校のブログなど、見てほしいページは印刷して渡しています。

子どもの記事への添削方法は?

句読点や言葉の間違い、表現に対する感想などは、一人ひとりのフロッピーのソフト上に書きこんで渡しています。「この前の写真、良く撮れていたよ」「この表現だと、給食の味が良く伝わるね」といった感想です。こうしたやりとりで、子どもたちのやる気も出てくるのです。作文の授業は苦手でも、ホームページだと「書かされる」意識がないためか、楽しく書くことができると子どもたちは言います。子どもは磨けばどんどんのってくる。表現力は高まっています。

ホームページも変化しましたか。

実際に子どもたちが関わるようになったら、すぐにいきいきとしてきました。委員会の子どもたちが、楽しく参加しているのが伝わるからです。保護者の方の反応も高くなりました。例えば「今日、お子さんのこういう絵がホームページに掲載されますので、ぜひ見てください」と伝える。すると、遠く離れて住んでいるお祖父さんやお祖母さん、あるいは会社でお父さんも見ました、とうれしい反応が返ってきます。思えば子どもの作文だって、これまでは書いたものをすぐご家庭に渡せるわけではありませんでした。リアルタイムですぐに載せられる、また誰でも見ることができるところに、ホームページの良さがあると思います。ホームページを通して、家族や地域と学校について語る機会も増えています。

どのような子どもたちが、委員に参加していますか。

カメラを使いたい、キーボードで入力したい、スポーツのことを発信したいなど、それぞれの思いを抱き、パソコン委員会に憧れている子どもたちです。私たちの活動はすでに認知されており、定員も超過している状態です。委員になれなかった子どもには、特派員として参加してもらっています。参加動機の根底にあるのは、自分たちの発信した記事をみんなが喜んで読んでくれている、という実感だと思います。

地域との交流はどのようにしていますか。

校長がこの点を熱心にサポートしてくれています。地域の部会に参加してインターネットの話をしたり、地域新聞にも載せていただいたり。情報公開するだけでなく、人と会い、紙の媒体なども使いながら伝えていくのです。次第に、地域の人からのコメントがホームページに入るようになっていきました。今ではJ-KIDS大賞の応援団投票にも参加してくださるほどです。あるいは、終戦間もない時期に卒業した当校の卒業生は、当時の写真を掲載してほしいと持ってきてくれました。アップされた記事には「あの頃は修学旅行に行けなかった」「何十年ぶりかでみんなで集まろう」と書き込みされていました。温かい気持ちになりますね。PTAの方々も参加してくださっています。みんなが応援してくれています。学校でも、若い教諭がキャンプの時には携帯電話を駆使して、出先からリアルタイムで掲載するなど、多彩な応援態勢ができあがっています。

振り返り、ホームページづくりへの感想を。

困ったことや問題にも直面しましたが、その都度、本当に多くの方々に助けていただきながらここまで来ました。ブログを始めるにあたっても、校長が「大丈夫だから」と、調整を買って出てくださった。全国の先生からも、励ましの声をいただき、サポートしていただきました。自分一人ではない、支えられている輪が次第に大きくなっていく実感が、大きな励みになりました。私たちはホームページを通じて学校間の交流を積極的に行っています。愛知県にいながら北海道の子どもたちと語りあっているのです。教科書で覚える「北海道」の範疇を超え、「知床にはこういう鷹がいて、こういう学校があるんだ」といった、生きた情報を子どもたちは得ています。インターネットには確かに危険な側面もあるでしょう。しかしそればかりにとらわれるのでなく、交流という可能性に、もっと目を向けてほしいと思います。

ホームページづくりに参加しています。パソコン委員会のみなさん

「委員会はパソコン委員会で、クラブもパソコンクラブです。楽しいです!」

「半年間、米国ボストンに住んでいたので、その時の体験を記事にしています」

「給食の時間にデジカメで写真を撮って、紹介しています。"おいしい"という言葉をできるだけ使わずに、おいしさを伝えるようにしています」

「『せべっこ日記』や『委員会日記』は、みんなで打ち込んだ、みんなの心がこもっているページなので、たくさんの人に見てもらいたいです」

「内容が濃くて伝わる、わかりやすい文章を書けるようになりたいです」

取材後記
ホームページが拓く可能性

すれ違う取材班に「こんにちは」と次々、声がかかる。小雨降る肌寒い日でも、子どもたちの元気は変わりません。パソコン委員会のメンバーは、取材を受けることに少し緊張しながらも、受賞したホームページに関わった栄誉に目を輝かせながら、誇らしげに語ってくれました。かけがえのない小学校時代に、彼らはホームページ作りから日々学び、自ら体験して考え、交流を広げています。真っ直ぐで一生懸命で、やんちゃな子どもたち。元気な子どもがそこにいるだけで、周囲は幸せな気分になります。小学校ホームページを応援することは、子どもの未来を応援することである。そう実感した一日でした。

取材報告:石黒 知子

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