ホームページにもどる


『J-KIDS大賞2005小学校ホームページ・サミット』リポート


文部科学大臣賞 鹿児島県代表 鹿児島市立 西陵小学校
西陵小学校:日隈健一校長, 牧健一教諭, 児童, 保護者の方々
取材:選考委員 豊福晋平, J-KIDS大賞実行委員会

鹿児島市立西陵小学校は、全校児童数848名、1学年4クラス、教職員数は約50名、という大規模校。J-KIDS大賞では3年連続でベスト8に選ばれ、J-KIDS大賞2005では、見事、文部科学大臣賞を受賞しています。
週に1度のペースで提供される学校の様子や毎日更新される給食の画像、ホームページを開いた途端に目に入る「子どもが主役! 週刊西陵タイムズ」と銘打たれたタイトルが、見る人のハートを一瞬にして釘付けにします。
では、西陵小学校のホームページは、いったいどんなふうに育まれ、愛されてきたのか? 西陵小学校を訪問し、お話を伺いました。

「伝えること」で「理解を得る」
「どういう目的で、何を対象にホームページを作るかで、随分違いが出てくるのではないでしょうか」
そう語る日隈健一校長は、西陵小学校に着任されて1年目。前任校にいる頃から、新聞記事などで西陵小学校の活躍を知っていたと言います。西陵小学校への転勤が決まったときには、ご自身もホームページで学校の様子を見たそうです。

「当校のホームページは、情報担当の牧健一先生が学級のホームページをつくろうと考えて始まりました。そのため、学校の出来事や様子を広く知っていただくというスタンスです。 学校の教育活動、教育内容の周知は、昔から文書ですよね。学校だよりで校長の考え方を伝えたり、学級だよりで授業内容を伝えたり。ただ、子どもに配っても、親が忙しかったりして、どれだけ見てもらえているのか、正直不安なところがあります。それが、ホームページだと画像で伝えることができる。そういう意味でも、おたよりとホームページは、お互いを補完する存在だという気がします」

西陵小学校は、住宅街の中に位置する小学校。もともと学校と地域の間には、計画や行事を通して連携・交流があります。とくに最近では、保護者だけでなく地域全体で子どもたちを守ろうと、校長先生をはじめ、先生方、保護者の方々、地域の方々が、より積極的に活動し連携を取っているとのことです。
ますます地域との結び付きが重要となってきている今日このごろ。おたよりからさらに一歩進んだ情報提供を果たしている西陵小学校のホームページは、実際に学校と保護者の間をどのようにつないでいるのでしょう?
ホームページを開くと、家族が集まってくる
保護者の野添さん、木原さん、下山さん、鮫島さん、有村さん、清水さんにお話を伺いました。
「学校から配られる紙のおたよりは、業務連絡みたいなもので、事務的ですよね。ホームページは、画面を開いた途端、小学校ならでは空間に自分も居合わせているような気分になります。同じ温度とか匂いとか、本当に伝わってくるような印象を受け、子どもたちと同じ楽しさを共有できるんです」

まるで子どもたちが学校の様子を話すときのような笑顔で、西陵小学校のホームページの魅力を語ってくれました。

「子どもの話を聞いた後にホームページを見ると、それまでは想像でしかなかった部分が写真で、より鮮明に学校の様子が伝わってくる」
「親は、授業参観やかしこまった場面でしか、学校での様子を見ることができない。ホームページの中では、ふだんの様子や、遠足、修学旅行などの学校行事といった場面が情報発信されている。それが、すごくありがたい」
「ただ、あくまでもホームページはお楽しみ、プラスαです。大事なことは、やっぱりおたよりで連絡してもらわないと、インターネットが利用できないおうちは困っちゃいますから」
「でも、学校だよりは、家族で楽しみながら見ることはない。児童の言葉も載っているが、形式張っている」
「学校だよりを読むときはひとりだが、ホームページは、開くと家族が集まってくる」

伝達手段としての学校だよりと、家族がつながるホームページ。学校と家庭のつながる手段が増えたことによって、学校から離れた家庭の中でも、新たなつながりが生まれているようです。


名物コンテンツ「マウス君を探せ」がホームページの呼び水に
では、どんなきっかけで、西陵小学校のホームページの存在を知ったのですか? 保護者の方々に尋ねると、思いがけない回答が返って来ました。
「最初のきっかけは、子どもが西陵小学校のホームページにあった『マウス君を探せ』というゲームをやっていたことです」

『マウス君を探せ』は、西陵小学校のホームページに初期から存在する人気コンテンツ。牧先生が子どもたちのために自作した、西陵小学校を探検するゲームです。

「何回やっても、最後までたどり着けない。子どもも親も、一生懸命やってしまう」
「夜の西陵小学校が舞台になっている。いつも知っている小学校が、まるで違う学校に見える。普段見られない夜の学校の様子にドキドキ。うちも、よそのお宅にお邪魔したときに初めて見せてもらい、子どもたちが目の前にあるおやつよりも『マウス君を探せ』に夢中になっていた姿が印象的でした」

子どもたちが夢中になる姿を見て興味・関心を抱き、子どもたちと一緒に楽しもうとする保護者の方々。積極性に子どもや学校と関わろうとする姿勢に、西陵小学校のホームページが関係していることは間違いなさそうです。

情報委員会、大活躍!

西陵小学校では、情報委員会として20名の5、6年生が在籍。今日の給食の感想や『子どもNEWS』『いい人探し隊』となどのコンテンツの作成、パソコン教室の開放時の立ち合いなどで活躍しています。情報委員になったことのある子どもの保護者から、こんなお話を伺うことができました。

「去年、上の娘が情報委員会に入っていました。牧先生にいろいろ教えていただき、ものを作る楽しさや子どもたちでひとつのものを作り上げていく喜びを覚えたようです。今でも自分でいろいろと作っていますね」
「『いい人探し隊』や毎日の給食の感想も、好き勝手に書くのではなく、全国に発信するという意識の下で自分たちの言葉で書くことを、指導していただいています。また、インターネットでの情報の扱いに対して、便利な面と怖い面をきちんと教えてもらっている。低学年のうちは、ただ楽しさを求めてインターネットを利用していても、高学年になったら、いいところと悪いところを覚えていく必要があるので、学校で指導していただけることは、すごくありがたいです」

実際に情報委員会で活躍している子どもたちに、インタビューしてみました。


Dialogue with little editors
Q 情報委員会に入ったきっかけは?

「キーボードが打てるようになるし、自分だけのホームページが作れるから」
「低学年のときに、情報委員会の人たちを見て憧れていました」
「お父さんがパソコンの修理をする仕事をしていて、格好いいな、と思っていたから」
「授業でパソコンを使ったときにわからないことがあったので、情報委員会に入ればわかるようになるかな、って」

Q 給食の感想を書くときに、心がけていることは?

「西陵小学校の給食はすごくおいしいから、それを伝えたい」
「でも、感想を書くときに、『おいしい』という言葉を使うことは禁じ手なんです」
「舌触りとか、手触りとか、クラスの様子とか、ジューシーでしたとか、感じを伝えるようにしています」

Q 自分でホームページを作るときに工夫していることや注意していることは?

「すごい、だけじゃなくて、何がすごいのかがわかるように書く」
「みんなの様子が見ている人に伝わるようにしています」
「何があったか、どう感じたか、しょっちゅう考えていないとならないところが難しいです」
ホームページが、子どもを育てる手段になり得ることに気づいた
情報担当の牧健一先生は、鹿児島の生んだ有名人・西郷隆盛を思わせる大柄な体格と、子どもを見守るやさしいまなざしが印象的な、西陵小学校の人気者です。この度の文部科学大臣賞受賞を「嬉しかった」と照れ笑いしながらも、非常に謙虚な姿勢でインタビューに応じてくださいました。
「最初にホームページを作ったときは、まずは学校の様子を知らせること、それだけでいいと思っていました。それで、週行事を載せていくのがいいな、そのペースならできるかな、と思って、『週刊』としました。ただ、ホームページを開いたときに前回と同じ画面のままだと、その後はあまり見てもらえなくなるので、トップページの画面構成は工夫し、ワンクリックで最新の情報にたどり着けるようにしています。 やがて、情報委員会がホームページを作れることに気づいたとき、ホームページを作ることが子どもを育てる手段にもなり得ると思いました。それこそ、最初にJ-KIDS大賞で賞をいただいた頃の話です」
ホームページの成長の陰に秘められた情熱
牧先生は、子どもたちにコンピュータやインターネットに触れる場所だけでなく、きっかけの提供も図りました。

「『マウス君を探せ』は、パソコン教室に来た1、2年生に何か遊ぶものを、と自作しました。レベル5まであって、それなりにパソコンやインターネットの使い方を知らないと解けないようになっていますが、それが意外におもしろかったみたい。『マウス君の発見者は、学校にメールをください』としていたので、1日に何通もメールが届きました。
その後、総合的な学習が始まり、情報の時間を特設するときに、3年生の教育課程に『マウス君を探せ』を組み込んでしまったのです。リンク先をクリックしたり、矢印が指差しに変わったら違う画面へ飛べることを覚えたり、とインターネットを使うきっかけにもなり、ゲームをクリアするために、アドレスを探すとか、ZIPファイルの解凍の仕方とかにもチャレンジすることになります。子どもと一緒に家でやっていた保護者からも、問い合わせのメールがたくさん届きました。結果的に、これが保護者の方にホームページを見ていただく呼び水になろうと思ってもいませんでした。」

最初はパソコンやインターネットを使うだけだった子どもたちが、やがて牧先生のご指導の下、自ら情報発信をするようになります。

「子どものスキルはすごく上がりました。ホームページを立ち上げた頃は、キーボードが打てなかったんですよ。ホームページを作るどころじゃなかった。それが、今では、私より打つのが速い子がいますから。そういう世代が卒業生になり始めている。子どもたち全体の底上げもあったから、情報委員会もうまくいっています。
子ども自身が、ただ作るのではなく、見る人のことを考えて視線の動きがあまり大きくならないようにとか、ここに動くものがあると気をとられるとか、Webデザインに近いような話も口酸っぱく言っています。こうして子どもにスキルを身に付けさせ、やがて子どもたち自身の力になると思うんです。

『いい人探し隊』を始めたのは、学校の中でホームページに何か役割を持たせたいと考えたからです。理想的には、例えば子どもがいい作文を書いた、いい発言をした、そういうときに担任がホームページに載せていくような、そんな役割を持たせられたら、と思っています」


「いい人探し隊」が育み、広げた「いいこと」
『いい人探し隊』は、西陵小学校の人気コンテンツのひとつ。子どもたちが、学校内で見つけた『いい人』について、運営委員会が全校児童に募集をかけて選出し、放送委員が昼休みに放送で紹介、情報委員会が取材に行って記事を作成する、という連携プレーで行なわれています。

保護者の方々も、『いい人探し隊』の活動には、好感を持っているようです。
「低学年の子どもたちが、お兄さん、お姉さんの真似をして、『○○ちゃんのこういうところがよかった』って、ミニ『いい人探し隊』をやっています。そうやって、その人のいいところを見つけてほめるという風潮が、ホームページに載っている雰囲気そのままに、学校全体に浸透しつつあるようです」

ホームページをきっかけにして学校に、子どもたちに、着実に育まれているものがある。さらにその様子が、学校の中だけでなく保護者や地域の方々にまで広がっていることが、お話の随所から伝わってきます。

「PTAでは、今、防犯対策を知らせる腕章を付けています。親も地域も、自分の子だけじゃなく、みんなでみんなを見守ろうよ、という意識を育むために、まずは自分たちが防犯意識を持っていることを掲げ、町内の年配の方や子どもがいない方にも『私たちにもできることをしよう』と思っていただくきっかけになれば、と考えています。」
「悪いことを言い出したら、きりがないです。悪い方向には大きく膨らんでいきやすいですから。でも、『いい人探し隊』のように、いい方向で形になって見えてくると、そういう不安も少しは解消される。いいものがあると、やっぱり見たくなりますよね。子どもたちがいい捉え方をされているのを見れば、じゃあ、うちの子はどうなの?と興味が沸く。だから、子どもたちをいい方向で取り上げることは、ホームページ全体にも、学校全体にも、すごくいい影響を生んでいるのではないでしょうか」
牧先生の描くホームページの未来図
牧先生は、こんなふうにおっしゃいます。
「自分の考えに少しずつ近づけているのかなと思ってはいます。でも、ホームページとしては、まだまだ未成熟です。J-KIDSサミットで知り合った他の小学校の先生方のお話を聞くと、地域の方に情報をいただいてとか、連携してとか言っている。それに比べて、うちはまだ学校の中で何か役割を持たせよう、持たせようとしてあがいている段階ですから・・・。まだまだ至らない部分があると痛感しています」
とは言いつつも、牧先生が思い描く未来図は、かなりはっきりとしているようです。

「やりたいことのアイディアは、たくさんあるが、現実問題として、悩んでいる部分もたくさんあります。 例えば、6年生は、総合学習の中でグループごとに分かれて、西陵のガイドブックを作っています。9時間という授業数の中で、取材の段取りを練ったり、取材先へ自分で電話をかけたりして、最低限の情報モラル、肖像権、知的所有権、個人情報の取り扱いなどを学ばせています。もしそれが、1学期の9時間だけじゃなくて、もう少し時間をかけて、しかも各学期に継続的にやったら、さらに子どもが育つと思っています。 」
「あるいは、他の先生方に協力を仰ぐに当たって、ホームページ作成への敷居の高さを払拭する必要があると思っています。当たり前ですが、教師の本分はホームページ作成ではありませんから、その時間の確保について優先順位は高くない。だから、もう少し簡単になれば、ホームページに関する作業時間を短縮できると考えて、ブログの導入にもチャレンジしました。導入した頃は、作っても誰が見るんだ、という意見もありました。でも、自分では、誰も見てくれないからこそ見てもらえるものを作ろうと、続けていくことが大切だと思っています。自分自身、ホームページを作る行為そのものが楽しくなったから続けて来ることができたし、おかげでいろんな勉強ができたと思っています。だが、それでもモチベーションを保つのは難しい。教職員全体が、同じようにやる気になるとは限らない。 さらに、欲を出すならば、ホームページの役割を地域にまで広げるために、PTAの方にもスタッフになってもらって、どんどん更新できるようなコーナーがあればいいと思います。 いずれにしても、これ以上進めるには、1人では無理な段階に入っている気がしています」


みんなの小学校・みんなのホームページ
日本を代表する小学校ホームページのひとつでありながら、まだまだとおっしゃる牧先生。
それでも、いちばん最初に牧先生の描いた未来図が、子どもたちに伝わり、子どもたちを通じて保護者に伝わり、今の西陵小学校全体に広がっていることは間違いないようです。
保護者の方が、こんなふうにおっしゃっていました。
「『最初は本当に自分が1人で作っていて、これではいけないと思った』と牧先生がホームページに書かれていたんですが、最近は、他の先生もデジカメを持ち歩いて、いろんなところを撮っていらっしゃるように、本当に学校全体のものになりつつある気がしています。ひとつのクラスから出発したホームページが、今はみんなが持ち寄り、西陵小学校全体のホームページになってきている。すごく誇れるものになってきていることが、親としてもとても嬉しく思います」

常にホームページの在り方を問い続ける日隈校長や牧先生の真摯な姿と、それを応援する保護者の方々の強い絆に守られている子どもたち。
今までの、直接お願いしたり、文書で伝えたりするつながりに加えて、新たにホームページという手段を用いて、小学校と保護者、地域のつながりはますます強まり、子どもたちへの想いがさらに育まれているように感じられました。



文:J-KIDS大賞実行委員会

ページのトップへ
主催: J-KIDS大賞実行委員会 | お問い合わせ・リンク |