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『J-KIDS2007小学校ホームページサミット』リポート
講演3:『リビングワールドの仕事から:発見の条件
 西村 佳哲氏 氏
 リビングワールド代表
 
友人が「温室」というギャラリーを都心の屋上で始めることになったので、この場所を使ったワークショップを企画したことがあります。「土の10日間」と題し、6組の親子に、二箇所で20cm角立方ぐらいの土を採集して、集まってもらいました。その土を植木鉢に移し替えて、この日から10日間、種もなにも植えずに、ギャラリーのスタッフが毎日水やりします。さて、どうなるか。10日後に再会して確認しよう、というワークショップです。僕は、明治神宮と近所の空き地の土を採取しました。実はバンクシードといって、土の表面10〜20センチの間には、どこの場所であっても植物の種が入っているそうなのです。はたして、少ししか芽が出ていない鉢もあれば、ミッシリ若芽が出ている鉢もありました。その辺のなんでもない土の中に、生命が種として遍在しているのです。この続きは家に持ち帰ってどうぞ、と解散しました。ちなみに、その後3年を経ましたが、わが家では今も神宮の土から育った赤芽柏があり、すでに巨木化しています。

 
親子が一緒になって、ひとつのものに驚くとか、向かい合うという状況をつくり出したくて考えた企画でした。一緒に調べるけれど、親もわからない。予想外のことに一緒になって驚く。そういう経験をつくりだしたかったのです。 他の事例をあげましょう。デジカメにはインターバル撮影機能というのがあります。設定時間ごとに自動的にシャッターを押す機能で、15秒ごとに設定すると、一日では3000ページのJPEGデータが出来上がります。これをアップル社のQuickTimeにドロップすると、パラパラマンガ状のコンテンツになるのです。カタバミを撮ってみました。すると太陽を浴びつつも葉がハタハタしている様子が映っています。不思議に思って調べると、植物は光合成をしたいが、紫外線に当たりすぎると葉緑素が破壊されてしまうので、時々、太陽から逃げているのだというのがわかりました。この装置は、時間のスケールを変えることで「虫めがね」と化しているのですが、面白い発見に出合います。

 
これを使って、小学3,4年生に2週間のワークショップを行いました。グループごとに分かれて自由に24時間撮影を行い、先生が編集した後に見て、どんな映像なのかまとめて発表するという授業です。何か自分で発見したら、自分の力で調べるということを本気でやってほしかったのです。最近は「○○を調べよう」と、すでにパッケージになっているケースが増えていますが、それではつまらない。子どもたちも、どこかでしらけているのではないでしょうか。あるグループが、なまずを撮ったら、あくびしている様子が映っていました。子どもたちは大喜びで調べ始めます。理科の先生に聞きに行き、図書室も大にぎわい。あれこれ手を尽くしましたが、結局なにも分からなかった。でも、真剣に調べたのに分からなかったという経験も、得難いことなのです。

子どもたちに「オーロラって何?」と聞くと、小学生は「はい、はい」と手を挙げ自由な答えを返しますが、中学生あたりになると「自然現象」という答えが途端に増えてきます。それは間違いではありませんが、理解していない証左。分からないフォルダにひとまず入れる便利な言葉を使っているだけで、思考停止を招いています。処世術ともいえるでしょう。分からないことを自分なりに考えて推察するのは、科学の入り口であり、尊い部分のはずです。

 
アウトプットより、インプットの能力を高めたい。何かを感じる能力を高めるような、そういう時間を大切にしたいという思いで、こうしたワークショップを始めました。その際、参加態度は期待しません。主体的な子どもが多いと授業をやる方は楽です。が、一見主体的に参加していない子どもも、あとで作文など書いてもらうと自分なりの視点でしっかり感じ・考えていることがわかる。多くの子どもは、親や先生の期待に応えようと過剰適合しがちです。でも、発見することや、分からなかったことが分かることの喜びは、本人のものです。何を発見するかも予め用意しない。その喜びを奪ってはならないと僕は思うのです。

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