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J-KIDS大賞2005受賞校インタビュー


J-KIDS大賞 千葉県代表 印西市立 大森小学校
大森小学校:澤田安男校長, 松本博幸教諭, 児童
取材:選考委員 豊福晋平, J-KIDS大賞実行委員会

J-KIDS大賞2005で、2003年、2004年に引き続き、見事V3を達成した千葉県印西市立大森小学校。今回の受賞理由にもあるように、「子どもたち自身が『自分たちのホームページ』として自主的に活動」しています。
では、一体どんな考えの下に取り組んで来たのか。これからどんなふうに変わっていくのか。まずは、澤田安男校長にお話を伺いました。


「子どもたちに『目に見える力』を」
「学校経営としていちばん大切なのは、子どもたち自身に『目に見える力』をつけてやることだと思っています」
澤田校長は、そう断言します。

「当校では、ここ3、4年、特に体育に力を入れています。体育の場合、1年生でつけるべき力は1年生でつけていなければなりません。1年生でこれだけの力をつける、2年生でこれだけの力をつける、と系統的に積み上げていく必要があるんです。目標にたどり着くために、手を変え、品を変え、言葉を変え、技術的に少しずつレベルアップさせながら、繰り返し、繰り返しやっていく。当校がやっているのは、そういう体育です。
できて初めて楽しいと思えるわけですから、まずはできるようになること。それが根底だと思うんです。さらに、素地を積み重ね、ひとつのことを徹底することで、子どもたちに目に見える力がつき、自信につながっていくのではないか。そんな気持ちで、ずっと取り組んでいます。

ホームページや情報教育についても、同じことです。だからこそ、当校の場合は、『ホームページ』を校務分掌できちっと位置づけて、学校教育の一環として取り組んでいます。しかも、『子どもに目に見える力をつける』ということを前提にしているわけです。そういう考え方の下で、全職員が関わっているということは非常にうれしいことだし、よくがんばってくれているなあ、と思います」
「ホームページの取り組み・考え方は、他の教科と変わらない」
澤田校長のお話を伺いながら、以前、情報担当の松本博幸先生からこんなお話を聞いたことを思い出しました。
「ホームページの運営にどうやって多くの先生方や子どもたちを巻き込んだのか?、とよく聞かれるんですが、そんな大層なことではありません。例えば、運動会を行うときは、他の先生方や子どもたちと一緒に取り組みますよね。その方法を、ホームページに応用しただけなんです」

確かに、これからホームページに関わろうとする先生方には想像のつかないこともあるかもしれません。でも、基本的な考えは、授業や学校行事を行うときと変わらないとしたら?
改めて、松本先生にお話を伺いました。


「例えば、逆上がりから学ぶものって、結構多いんですね。まず、今の自分を知る。自分が技術的にどんな状態なのか。できるようになるためには、何をどう練習したらいいか。友達はどうなのか。友達ができるようになるためには、どんな声かけをすればいいのか。こういうふうになりたい、という最終形を子どもたち自身に想像させ、そこに到達する手立てを与えることができます。
さらに、目標に到達するために、いろいろな教材を組み立て、さまざまなスモールステップを階段状に与えることが可能です。ジャングルジムを使って逆さ感覚を身につけたり、上り棒を2本使って回る練習をしてみたり。そのステップを1段1段昇ることで、子ども自身に先が見えてくるし、過去の自分も見えてくる。さらに、それらを通じて、子どもたち同士の関わりが生まれる。努力する喜びを味わえる。だから、逆上がりは、子どもたちの指導に有効な教材なんです。

情報教育でも、ただパソコンを与えるだけじゃなくて、こういう自分をつくり上げていこう、と子どもたち自身にイメージさせて、指導していく必要があると思います。とにかくパソコンを使おう、とりあえずやってしまおう、ではなく、何を学ばせたいのか、何を身につけさせたいのか、どんな子どもにしたいのか、そのための手段としてパソコンがいいんだ、という形でないと。

当校のホームページでは、『新聞ブログ』を発信しています。これは、6年生が数班に分かれて、その日いちばん気になった新聞記事を取り上げ、自分のコメントを寄せる、というものです。これは、子どもたちに表現力を付けよう、と始めたものです。その最終目標に至るために、さまざまな過程を用意しています。
子どもたちは、まずノートにその日の新聞記事のまとめと感想を書き、その内容をクラス全員の前で発表します。他の子どもたちは、その内容を聞いて、共に考え、アドバイスをします。それを反映させた上で、初めてブログに書き込むのです。読む・書く・話す・指摘する・聞く・直す・書き込む、と子どもたちの表現力を高めるために、いくつものステップを経ています。
さらに、ブログで発表できるだけの文章力を身に付けるために、実は5年生のときから、ノートへのまとめと教室内での発表を行なっているんですね。6年生になって、今度は学校の外にも発表する機会を得る。意図的に、そういう段階を踏んでいるのです。

当校では、情報教育に関してある程度のカリキュラムができ始めている、と自分では思っています。計画委員を主体とした運営を行なうために、年度初めに子どもたちに何を考えさせて、話し合わせたらいいか。意見をどうやって吸い上げ、反映させるか。情報スキルや情報モラルを、総合的な学習でどう扱うか、日々の中でどう指導していくか。毎日の更新やコンテンツの見直しをどう行うか。年度末に、次の学年にどういう引き継ぎをさせるか。1年間の流れを記録に残していますから、やる気さえあればどなたでも同じようにできると思います。どんな教科でもそうですよね。ありきたりの内容で進めてしまうこともできますが、子どもをより輝かせたいのであれば、教師側にもそれなりの努力が必要だと思います」

「ホームページを作り始めて、自分は成長したと思う」
では、子どもたちは、自分たちの活動について、どのように捉えているのでしょう? 大森小学校の計画委員の子どもたちに、お話を伺いました。
計画委員会は、もともとは集会活動の計画や運営を行なう児童会のような存在です。大森小学校では、計画委員を中心とした高学年の子どもたちがホームページの作成を行なっています。

Dialogue with little editors
「計画委員になった4月から、確かに自分は変わった」
「ホームページを作り始めて、自分は成長したと思う」
そうはっきりと断言する子どもたち。目を丸くする大人たち。
では、具体的にはどんな部分が?、と問うと、子どもたちからはこんな答えが返ってきました。
「私は作文が苦手だったんですけど、わかりやすい文章を書けるようになりました。様子を伝えるために、例えば、バーンとかドンとか音を入れてみるとか」
「僕は作文を書くとき、何枚も何枚も書いてしまい、上手くまとめられなかったんです。でも、ホームページをつくるうちに、限られたスペースに一番伝えたいことをまとめる方法がわかってきました」
「絵を描くときも、一番伝えたいこと、印象に残ったことを、一番最初に描くようにしています」
「絵も、写真を撮るときみたいに、伝えたいものを真ん中に大きく描いたり、アングルを変えてみたり」
「写真を撮るうちに、例えば笑った顔は、ほっぺが上がったり、目が半円になったりすることに気づいたので、真似して描くようにしたら、絵に表情が出てきた気がします」
情報教育の範囲を超えて効果が生まれている。さらに、そのことを子どもたちが自覚しているのです。

それだけではありません。
「見る人や載る人が嫌な気分になるようなことや個人情報は、載せないように気をつけています。先生に教えてもらったからだけど、自分でも確かにその通りだと思ったので」
「最初はみんなで固まって作業していたんですが、今は片方で写真を撮って、片方で文章を打つ、というように分担してできるようになりました」
「予定稿を作っているときに、こういう写真を撮っておいて、ってお願いすることもあります」
「調べ学習のときに、パソコンって楽しいな、と思ったんです。本だと写真が載ってないこともあるけれど、インターネットだと画像があって、どういう様子なのかわかるから。自分たちの記事も、文章ばかりじゃなくて写真も取り入れた方が伝わるのかな、って。それに、文章ばかりだと小さい人には見にくいと思うし」
「低学年の子も読めるように、漢字にふりがなをつけています。去年の6年生から引き継ぐときに、教えてもらったことのひとつです」

ホームページを通じて、周囲への思いやりや読者への心配り、共同作業の段取りの良さなどの「力」も身に付けていく子どもたち。
後で6年生の担任である黒川節子先生に伺ったところ、
「確かに、以前は、文章の中で主語・述語がねじれたり、何が言いたいのかよくわからなかったりしていた子も、自分の本当に言いたいことを的確に表現できるようになっています。文末表現(です/である)の統一も、今では全員がマスターしていますね。ホームページの中で『〜だよ』『〜です』と使い分けているうちに、子どもたちの中で混在しなくなったのではないでしょうか。
生活面でも、4月までは決して積極的ではなかった子が今では自然と周囲を引っ張る役割を果たしていたり、友達へのアドバイスが的確になっていたりして、計画委員を中心に6年生全体に変化が生じているのは間違いないです」
とのこと。

「去年、一昨年の6年生が格好よかったから、計画委員に立候補した」
「ブログを通じて、いろんな人たちと交流ができるのが楽しい」
「子ども日記で、1日のことを振り返りながら、友達や家族と話をするのが楽しい」
「中学校でも、ホームページをつくってみたい」
と明るく語る子どもたち。
「あまりにも子どもたちが熱心で、楽しそうなので、つられて自分でもホームページをつくるようになりました」
と照れ笑いする先生や保護者の方がいらっしゃるように、子どもたちは周囲の人たちにホームページへの理解と協力を促す役割も果たしているようです。
大森小学校のホームページのこれから
最後に、松本先生に、大森小学校のホームページの今後について伺いました。

「2005年の夏に『J-KIDSサミット』に参加して、他の先生方とのネットワークができました。メールやWikiを使って情報交換をする中で、技術的な悩みを解消された先生が出てくるなど、少しずつ成果も出ています。もっといろんな方に参加していただいて、さらに交流が深まるといいですね。

ホームページの最終的な目標としては、学校が地域情報を得るための拠点になれたら、と思っています。行政による情報活動とは違って、子どもが積極的に関わり、発信する。あるいは、学校だけではなく、いろんな人がいろんな形で関わりながら、地域全体で子どもを育てていく。そのツールのひとつとして、ホームページを育てていきたいです。
そのためには、子どもたちはもちろん、それを支える地域の方々のスキルやモラルの向上も必要になるでしょう。目指すところに近づけるよう、保護者の方々にもホームページに参加していただいたり、地域のおじいちゃん、おばあちゃんに学校に来てもらって、実際にインターネットに触ってもらったり、ということも行っています」

当たり前のことをありのままに伝え続けること
熱心な運営活動の陰には、あくまでもホームページを教育活動の一環として捉え、学校のあり方、教育のあり方、子どもたちの目指す姿を、常に真摯に考えている先生方の姿があります。
澤田校長は、こう語ります。
「学校の情報を伝えるために、手っ取り早くホームページを活用することを考えた。最初のきっかけは、それだけなんです。いいか悪いかはわかりませんが、とにかく私たちはいいと思って、結果的に子どもたちのためになると信じてやっていることですから」

ホームページだからといって気負わず、背伸びせず、学校の等身大の姿を、当たり前のことをありのままに伝え続けること。こうした日々の繰り返しが、周囲の方々からのより深い理解と協力を得ることにつながっているのです。



文:J-KIDS大賞実行委員会
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