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『J-KIDS2006小学校ホームページサミット』リポート


講演3『学社融合 〜学校づくり・子育ち・まち育てはセットでできる!
岸裕司氏
株式会社パンゲア代表取締役,秋津コミュニティ顧問,学校と地域の融合教育研究会副会長

 
私には子供が3人おりますが、全員、地元の秋津小学校で学びました。ところで現在、都心部の主に新興住宅地と呼ばれた地域では、2つの老い問題が進行しています。ひとつが集合住宅の老朽化。もうひとつが住民の高齢化です。そのまま手をこまねいていては、やがて都市の過疎化が進んでしまうでしょう。これを解決する鍵は、そこに子供がいること、そしてUターンやIターンをしたくなる地域となることなのです。

 
欧米のビジネスシーンにおいて、「WIN&WIN」という言葉がよく用いられます。これは自分も取引先も勝つことを意味します。実際に、1社が利益を独占する構造では組織の腐敗を招き、やがて内外から告発され、結果的にビジネスが長く続かないというケースも相次いでいます。組織を健全に保つには、情報公開と説明責任をセットで行うこと。ビジネスにおける常套手段は、学校と地域においても共通するものです。

私の発想はビジネスで培われたものですが、これを教育の場にも生かせるのではないかと思い、20年前よりPTA役員として働き始めました。子供を通して学校と社会に関わる中で、保護者と教職員は対立すべきではなく、共に「授業を充実させる」というひとつの目標に向かうべきではないか。そのためには「学」と「社」を融合させるのが効果的ではないか、と気づいたのです。地域住民は学校に入って、教育活動を協働し、学校は施設を地域に開放するということです。

 
実は秋津小学校も、最盛期には1,148人以上だった児童数が年々減り続け、4年前には320人を割るまでになりました。このままでは、やがて統廃合されてしまうでしょう。児童が減ると教職員数も減り、教室だけが余ります。児童数が500人ほどに減った頃のこと、空いた部屋をいわゆる「余裕教室」として、地域に開放していただきました。そこで私たちは社会教育施設として活用しようと学校に集まり、囲碁や大正琴などを楽しみました。珍しいのか、子供たちも興味津々で教室を訪れます。すると、その様子を見ていた教職員が、クラブ活動として取り入れたい、授業に参画してくれないかと声をかけてきました。このような自発的な学校と地域社会のあり方を「学社融合」と言います。

 
地域の子供たちに接して教えるというのは、張り合いになります。こちらの学ぶ意欲も高まります。活動は広がり、学校は、楽しく元気な生涯学習の場となりました。この時、互いに無理をせず、出来る範囲で活動を広げていくことが、発展させていくポイントだと思います。児童と教職員が減って荒れ放題だった花壇も、住民が参加すれば菜園やビオトープ、田んぼに変身させることができます。現在では秋津小学校で、年間1万3千人の住民が学んでいます。集まる人々の顔と名前も分かるようになり、犯罪の抑止力となり、安心・安全で、住みやすいまちへと変化していきました。高齢者も元気に活き活きしてきました。これによりUターン、Iターンも始まり、過去3年間では児童数が着実に増加しています。そして身近に見て、教職員の苦悩が分かるようになりました。参画した住民は、変化していったのです。

子供たちは、さまざまな大人たちと接することで、コミュニケーション能力を培っています。同時に、住人に声をかけられ褒められることで、自尊感情も芽生えているようです。生涯学習できる社会は、人々に意欲や向上心をもたらしますが、学校はその拠点となりうるのです。学校の「学ぶ」と「施設」の2つの機能を協働すれば、まちも活性化することができる。学校でまち育てと次世代育ちもできるのです。
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